2050年までの達成が目指されるカーボンニュートラル。今回は、カーボンニュートラルに関する取り組み・技術の中で基本的なものを用語とともに整理しました。
整理は下図のように体系的に行い、各情報の位置づけを分かりやすくすることを試みました。図のツリーにある各情報は、左側にあるほど上位の目的に該当し、右側にあるほど具体的な課題や技術に該当します。

図は画像データとしてダウンロード(または右クリックメニューから保存)できますので、そちらを手元で拡大しながら以下の説明文を確認いただくと、より理解が深まるかと思います。
目次
カーボンニュートラルの背景と概要
- 世界全体で、持続可能(サステナブル)な社会を実現することが求められている。
= SDGs(Sustainable Development Goals / 持続可能な開発目標)
- SDGsとして挙げられている目標の13番目に「気候変動に具体的な対策を」というのがあり、特に地球温暖化を抑制することが必要とされている。
- 地球温暖化を抑制するためには、温室効果ガス(GHG, greenhouse gas)の排出を全体としてゼロにすることが求められる。
= カーボンニュートラル- 排出を全体としてゼロにするというのは、排出量から除去量と吸収量を差し引いた合計をゼロにすること(ネットゼロ)を意味する。
- 除去とは、温室効果ガスを何かしらの形で大気から隔離すること。
- 吸収とは、光合成や化学反応などの中に温室効果ガスを取り込むこと。
- 排出を全体としてゼロにするというのは、排出量から除去量と吸収量を差し引いた合計をゼロにすること(ネットゼロ)を意味する。
- カーボンニュートラルを目指すことによる産業・社会の変革を通じて経済を成長させることはGX(Green Transformation / グリーントランスフォーメーション)と呼ばれる。
- 温室効果ガスのうち最も多いのは二酸化炭素(CO2)であり、カーボンニュートラルの実現に向けては、CO2の排出を全体としてゼロにすることが最大の課題となる。
= 脱炭素
- CO2以外の温室効果ガスにはメタン・一酸化二窒素・フロンガスがあり、カーボンニュートラルでは、それらの排出を全体としてゼロにすることも対象となる。
- 脱炭素を実現するには、大きくは次の2つが必要となる。
- 大気へのCO2の排出を削減する
- 大気中のCO2の除去・吸収を促進する
= CDR(Carbon Dioxide Removal)
1.大気へのCO2排出削減に向けた取り組み・技術
- 大気へのCO2の排出を削減するには、各企業が経済活動においてCO2の排出を削減することが重要である。
- 企業としては、上記を通じてCSRを果たすことやESGに配慮することが課題となる。
- CSR(Corporate Social Responsibility)とは、企業が社会的存在として果たすべき責任のこと。
- ESGとは、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)といった、企業が長期的成長を目指す中で配慮すべき3つの観点のこと。
- 企業としては、上記を通じてCSRを果たすことやESGに配慮することが課題となる。
- 各企業が経済活動においてCO2の排出を削減するためには、次の3つができる。
- CO2の発生そのものを削減する
= 低炭素化 - 発生したCO2を大気へ逃がさない
= CO2固定 - 削減しきれないCO2の排出を埋め合わせる
= カーボンオフセット- カーボンオフセットとは、他の場所で行われる温室効果ガスの対策に投資をすることで、自社によるCO2の排出を削減したとみなす、という考え方のことである。
- CO2の発生そのものを削減する
- カーボンオフセットの推進に向けて、温室効果ガスの排出削減量や吸収量は、「クレジット」として売できるようになっている。
= カーボンクレジット
低炭素化に向けた取り組み・技術
- 低炭素化、すなわち、CO2の発生そのものを削減するためには、エネルギー起源CO2と非エネルギー起源CO2のそれぞれの発生を削減することが求められる。
- エネルギー起源CO2とは、エネルギー(電力量や熱など)の利用に伴って発生するCO2を指す。
- 非エネルギー起源CO2とは、工業プロセスにおける化学反応や廃棄物の処理などから生じるCO2を指す。
- エネルギー起源CO2の発生の削減には、エネルギーの需要側と供給側の双方で取り組む必要がある。
- エネルギーの需要側でエネルギー起源CO2の発生を削減するには、次の2つのアプローチが考えられる。
- エネルギーの消費量を低減する
- 利用するエネルギーをCO2排出原単位の小さいエネルギーに置き換える
- CO2排出原単位とは、単位当たりのエネルギーをつくる際に発生するCO2の排出量のこと。
- エネルギーの消費量を低減するには、次の2つの方法がある。
- エネルギーをそもそも利用しない
= 節エネ - エネルギーを効率よく利用する(エネルギー消費効率を高める)
= 省エネ
- エネルギーをそもそも利用しない
- 利用するエネルギーをCO2排出原単位の小さいエネルギーに置き換えるというのは、具体的には電力量をエネルギーとして用いることを指す。
= 電化
- エネルギーの供給側でエネルギー起源CO2の発生を削減するというのは、CO2排出原単位を低減することを意味し、それには次の2つの取り組みが重要となる。
- 電力量をつくる際のCO2排出原単位をゼロする
= ゼロエミッション電源 - 電力量以外のエネルギーをつくる際のCO2排出原単位を低減する
- 電力量をつくる際のCO2排出原単位をゼロする
- ゼロエミッション電源の実現に向けては、大きくは以下の取り組みが推進されている。
- 化石燃料(炭素が含まれる石炭・石油・天然ガスなど)を用いる火力発電を廃止する
- 再生可能エネルギー(クリーンエネルギー)を主力電源化する
- 原子力発電を最大限に活用する
- 化石燃料を用いない火力発電に向けては、火力発電の燃料を化石燃料からアンモニアや水素に転換することが検討されている。
= アンモニア発電および水素発電
- 再生可能エネルギーとは、自然界に常に存在し、枯渇する心配が無いエネルギーのことである。再生可能エネルギーを用いた発電には主に以下の種類があり、それぞれCO2を排出しないという特徴がある。
- 光を太陽電池に当てて起電力を生む
= 太陽光発電 - 風による風車の回転運動で発電機を動かす
= 風力発電 - 落水や流水による水車の回転運動で発電機を動かす
= 水力発電 - バイオマス(木材・食品廃棄物・排泄物などの生物資源)またはバイオマスから生じるガスを燃焼させて生じる蒸気で発電機を動かす
= バイオマス発電 - 地中深くでマグマの熱により高温高圧になった蒸気で発電機を動かす
= 地熱発電
- 光を太陽電池に当てて起電力を生む
- ゼロエミッション電源の実現と電力の安定供給を両立させるには、様々な発電方法を組み合わせること(エネルギーミックス)に加え、電気を蓄える蓄電池の技術も重要視されている。
- 電力量以外のエネルギーをつくる際のCO2排出原単位を低減することに関しては、産業・民生・運輸といった非電力の部門における課題として、水素やバイオマスを用いた次世代の燃料の活用や、工業プロセスにおける新技術の導入が進められている。
CO2固定に向けた取り組み・技術
- 発生したCO2を大気へ逃がさない(CO2を固定する)ためには、以下に関する技術が必要となる。
- 排ガス中のCO2を分離・回収する
- 回収されたCO2を地中深くに貯留する
= CCS(Carbon dioxide Capture and Storage) - 回収されたCO2を炭素資源として化学品・燃料・鉱物などに転換する
= カーボンリサイクル
- CO2の分離・回収には、以下の方式が考えられている。
- 化学反応を利用してCO2を吸収液や固体吸収材に吸収させる
= 化学吸収法 - 高圧・低温下で物理的にCO2を吸収液に吸収させる
= 物理吸収法 - 活性炭やゼオライトなどの多孔質吸着材にCO2を吸着させる
= 物理吸着法(吸着分離法) - CO2を選択的に透過する特殊な膜を用いる
= 膜分離法 - 気体の沸点の違いを利用し、低温下でCO2を液化・蒸留する
= 深冷分離法
- 化学反応を利用してCO2を吸収液や固体吸収材に吸収させる
- CO2を有効利用することはCCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)と呼ばれ、カーボンリサイクルはそのうちの一つである。
- CCSとCCUは併せてCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)と呼ばれ、脱炭素の分野では、カーボンリサイクルとCCUSは併記されることが多い。
- カーボンリサイクル以外のCCUには、CO2を原油の増進回収に用いたり、ドライアイスとして直接利用したりする例がある。これらは脱炭素よりも資源循環型社会を実現するという観点でより重要となる。
2.大気中のCO2の除去・吸収促進に向けた取り組み・技術
- 大気中のCO2の除去・吸収(CDR)を促進するには、以下の2つのアプローチが考えられる。
- 自然プロセスに人為的な工程を加えて大気中のCO2の除去・吸収を促進する
- 工学的プロセスを用いて大気中のCO2の除去・吸収を促進する
- 自然プロセスに人為的な工程を加えて大気中のCO2の除去・吸収を促進する方法としては、以下のものが考えられている。
- 自然の光合成を促進する
(化学反応式:6CO2+12H2O → C6H12O6+6O2+6H2O) - ケイ酸塩鉱物のCO2による風化(炭酸塩化)を加速させる
(化学反応式:XSiO3+CO2 → XCO3+ SiO2 ※XはCaやMgなどで、実際の反応はH2Oを介して行われる。) - 海水へのCO2の自然な溶解を加速させる
- 自然分解でCO2を発生する有機物を大気から隔離する
- 自然の光合成を促進する
- 自然の光合成を促進するには、以下の2つの方法が考えられる。
- 森林による光合成を促進するため、新規エリアの森林化や減少した森林の再生・回復を進める
= 植林・再生林 - 海洋の植物プランクトンや海藻による光合成を促進するため、海洋に養分を散布する
= 海洋肥沃化
- 森林による光合成を促進するため、新規エリアの森林化や減少した森林の再生・回復を進める
- ケイ酸塩鉱物のCO2による風化(炭酸塩化)を加速させるには、岩石を粉砕して表面積を増やしたものを土壌に散布する方法がある。
= 風化促進
- 海水へのCO2の自然な溶解を加速させるには、海水にアルカリ性の物質を添加する方法がある。
= 海洋アルカリ度の向上
- 自然分解でCO2を発生する有機物を大気から隔離するには、以下の方法が考えられる。
- 植物残渣を海洋中で半永久的に隔離する
= 植物残渣海洋隔離 - バイオマスを土壌に貯蔵・管理する
= 土壌炭素貯留- 土壌炭素貯留にあわせて、バイオマスを炭化して炭素純度を上げる取り組みも行われている
= バイオ炭
- 土壌炭素貯留にあわせて、バイオマスを炭化して炭素純度を上げる取り組みも行われている
- 植物残渣を海洋中で半永久的に隔離する
- 陸上の植物に取り込まれる炭素はグリーンカーボン、海洋生態系に取り込まれる炭素はブルーカーボンと呼ばれる。近年は、上記の海洋肥沃化や植物残渣海洋隔離などを含むブルーカーボン技術に対する注目が増している。
- 工学的プロセスを用いて大気中のCO2の除去・吸収を促進する方法としては、以下のものが考えられている。
- 大気中からCO2を直接回収・貯留する
= DACCS(Direct Air Carbon dioxide Capture and Storage)- 大気中からCO2を直接回収する技術はDAC(Direct Air Capture)と呼ばれ、DACCSはDACとCCSを組み合わせたものである。
- バイオマスの燃焼により発生するCO2を回収・貯留する
= BECCS(Bioenergy with Carbon Capture and Storage)- バイオマスの燃焼により排出されるCO2は、バイオマスが光合成の際に大気から吸収していたCO2と相殺されるため、排出量として加算されないことになっている。そのため、バイオマスの燃焼により排出されるCO2を貯留すれば、大気中のCO2を除去したことになる。
- 大気中からCO2を直接回収・貯留する
- 大気中のCO2の除去・吸収(CDR)につながる上記の技術は、まとめてネガティブエミッション技術(Negative Emissions Technologies, NETs)と呼ばれる。
最後に
今回は、カーボンニュートラルに関する情報を以上のような形で整理しました。もちろん、世の中に存在する課題や技術は、この限りではありませんし、より詳細な研究や開発は各領域において日々進められています。
オモイエル・イノベーションマップ研究会では、随時、関連する情報の追加・アップデートを行っていく予定です。本件に対するご意見や追加で知りたい情報領域のリクエストなどがあれば、オモイエルのお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。