設立から間もないベンチャー企業や社員が数名の小規模の企業では、次のような悩みを抱えているリーダーの方が特に多くいらっしゃるのではないでしょうか。

  • 会社のビジョンや想いはあるが、具体的に何をすれば良いか分からない
  • 目先の仕事にとらわれているうちに、元々あったビジョンを見失ってしまう
  • 自社のビジョンと十分な売上を両立させたい

オモイエルでは、会社(事業主)が目指しているビジョンと具体的な製品/サービスの方向性を整理できる「壁打ちサービス」を提供しています。

今回は、壁打ちサービスを3年以上利用している株式会社たびふぁんさんから、先述と同様な悩みを抱えている企業様に向けて参考となるお話を聞いてきました。

たびふぁんさんは、自社ビジョンについての内省に取り組むことで、周囲から注目を浴びるベンチャーの一つに成長しました。今回は、ビジョンを内省することの必要性とその結果に関する成功体験をご紹介くださりました。

株式会社たびふぁんの西岡さん、飯塚さん

以下は、たびふぁんさんからのコメントです。

やりたい仕事と売上を両立

これまでの活動にどのような変遷があったか

弊社は、大手旅行会社ではアプローチが難しい日本のニッチな所を取り上げて旅行を盛り上げたい、という想いで起業しました。当初は、中小の宿泊施設とその良さを発信してくれるマイクロインフルエンサーをマッチングする、というサービスを考案していたのですが、なかなか思うように売上は立ちませんでした。ただ、売上を得るために自社の想いを曲げる、というのも違うと感じており、どうすべきかを壁打ちサービスの中で考えていました。

そのような中、ある日の壁打ちの時に、旅行の行き先をまずは温泉に絞ると良いのではないか、という案があがりました。そこで、弊社のサービスを温泉のレコメンドサービスという形に切り替えたところ、少しずつではありますが、成果が出始めたのです。

一番の大きな成果は、事業に一定の売上が立つようになったことです。他にも、弊社では温泉情報を提供するLINEのbotを提供しているのですが、その登録ユーザー数が1万人を超えました。また、顧客以外に、SDGsや地方創生に関連するメディアからお声がけをいただくことも増えました。

売上を立てられるようになった理由①:リソースを集中できたから

売上を立てられるようになった一番の理由は、自社のビジョンを再確認し、それに基づいた仕事で売上をつくることに集中するようになったからだと思います。

もともとは、ベンチャーらしく事業を色々と立ち上げ、何にでもチャレンジしていく、ということが大事だと考えていました。しかし、そこには多くのタスクが発生します。そして、そのタスクの全てを十分にこなせるようなリソースとお金は我々にありませんでした。

そこで、目の前にある仕事が自分たちのやりたいことの延長線上に本当にあるのか、ということを確認する時間をきちんと作るようにしました。抱えている仕事と自社のビジョンとの整合性を判断する時間をとることで、重要でないタスクを見つけ、本当にやるべきと思える仕事だけにリソースを集中できるようにしたのです。

分かりやすい例で言うと、弊社のサービスでは、旅行先として紹介する対象をまず温泉だけに絞りました。さらには、国内に約3000箇所ある温泉の中でも、弊社が扱うのはその1割弱だけと数を減らしてきました。温泉をレコメンドするサービスなので、扱う温泉の数は多ければ多いほど良いと普通は考えてしまいがちなのですが、「ニッチな所を取り上げて旅行を盛り上げたい」というビジョンの軸があることで、少数の温泉に集中してその掲載価値を高める、という尖った方向に進む意思決定を客観的に行えたのです。

その結果、サービス内容自体はピボットしつつも、自社の根底にあるビジョンからはズレのない範囲で確実な売上を立てることに集中できるようになりました。

売上のためだけの仕事として何でもかんでもをこなすのではなく、今あるもの・できることで自分たちのやりたいことにつながっていることは何か、を再考することで、限られたリソースをうまく使うことができるようになったのです。

売上を立てられるようになった理由②:自社の提供価値が明確になったから

売上を立てられるようになった理由はもう一つあり、それは、自社の提供価値を明確にすることができたからだと考えています。

弊社では、自社の活動を外部に説明する際に「ニッチ」や「ロングテール」といった言葉を用いていますが、ニッチとは何か、ロングテールとは何か、というのが曖昧だと、自社の提供価値は相手に理解してもらえません。我々は、これらの言葉の定義を含め、自社の提供価値を明確にし、解像度を上げることに取り組みました。自社の提供価値が何なのかをしっかりと言語化して顧客に届けることを意識するようにしたのです。

これにより、我々が何者なのかを顧客が正しく理解してくれるようになり、ビジネスの提案が顧客に響くようになりました。これが売上が立つようになったもう一つの理由だと思います。

また、自社の提供価値の解像度が上がったことには、売上以外に、定性的な面での成果もありました。自社で制作しているコンテンツの質や精度を大きく改善できたことや、他社と自社の立ち位置の違いを明確に説明できるようになったこと自体も、大きな成果だと考えています。

ビジョンに向き合い、解像度を高め続けることが重要

売上を立てられるようになった先ほどの2つの理由に共通して言えるのは、ビジョンを確認し続けることが重要だったということです。ビジョンを何度も確認すること、そしてさらには、ビジョンの解像度を高め続けることが重要です。それにより、取り組む仕事がブレないように気を付けることができましたし、自社の提供すべき価値を明確にすることもできました。

他社ができないことをやるからこそ、自社には存在価値が生まれます。また、同時に、自分たちのやりたいことをやるからこそ、自分たちで会社を運営する意味があります。そのためにも、自社のポジションを作ることを意識することは必要であり、それには、自分たちのビジョンの解像度や精度を上げて、そこに信念や裏付けを持てるかを確認することが重要だと思います。

自社の提供価値について考えるのが必要だという点については、皆さんにも納得いただきやすい話だと思います。しかし、事業活動は考えるだけでは前に進みません。行動することも必要です。

その点、ビジョンについて考え続けることは、仕事やタスクに割けるリソースの判断にも影響を及ぼし、行動の面でも良い効果をもたらしてくれました。言い換えると、行動の側面にまで効果が現れるレベルで、ビジョンについて考えられるようになったのかなと思います。

弊社も他の多くの企業と同様、起業初期の頃は、自分たちの想いをどのように実現するかが明確でなく、いたずらに時間もお金も無くなっていく状態でした。しかし、想いをビジョンに落とし込み、そこに向き合い続けることで、使えるリソースを使うべき場所に振り切ることができ、また、他社ができないことをやっているからこその提供価値によって引き合いが増える、という好循環が生まれるようになったのです。

内省への取り組み方

自社の考えや課題について内省するには

弊社では、ビジョンについて継続的に考え続けることで、先ほどお伝えしたような成果が上がり、また、自己肯定の度合いも非常に高くなりました。そのために必要なのは、自社の考えや課題についての内省・リフレクションの時間を定期的に作ることでした。

弊社の場合、内省には2つのパターンで取り組んでいます。

1つ目は、オモイエルの近田さんに協力いただいている壁打ちです。

この壁打ちは、自社の考え方の軸がブレ始めていないかを客観的に確認したり、必要あれば軸の調整方法についての相談ができる時間になっています。ベンチャーとして活動する中では、自社も周囲も状況がどんどん変わっていくことが多くあります。そのため、自社の活動の方向性を定点観測しておくことは重要だと考え、1ヶ月ごとに2時間ずつ、壁打ちをさせていただいています。これは、自社の課題を客観的に見直したり、検討の大きな穴を発見したりできる、いわば健康診断のような役割を果たしてくれています。

もう1つの内省の取り組みは、社内で週に1回行っている、経営陣でビジョンとタスクについてがっつり議論するミーティングです。先ほどの壁打ちが定期的な健康診断なら、こちらのミーティングは病院に行かずに自分たちでやる予防医療みたいな感じです。

日々の活動の中で社外の色々な人と会うと、主観や恣意が含まれた意見が交じり、良くも悪くも自社の考え方への影響を受けます。そのような時でも、そもそも何故それがビジョンに対して必要なんだっけ、と問いかけ、前回の壁打ちの時の結果を見返そう、という文化が社内に生まれています。言い換えると、タスクの優先度や必要性についての議論を通じて、チームでビジョンに対する認識を詳細に擦り合わせ再確認することができているのです。

このような形で、内省だけをやる1ヶ月ごとの壁打ちと、壁打ちの結果を参照しつつ内省のマインドを持って行う日常的な社内議論、という2つのサイクルが弊社では回っています。内省の時間を作ることで、やりたいことを維持したまま収益を得る、ということができるようになったことに、とても満足しています。

他の会社にアドバイスできること

初期の弊社と同じような状況や悩みを抱えている会社は多くいらっしゃると思います。そのような会社は、自社のビジョンに向き合い、考え直すための内省が必要です。

内省に取り組もうとする際にまず課題となるのは、ご紹介したようなサイクルをつくることだと思います。特に、継続して成果を出すためには、内省を社内で習慣化・定着させることが課題になると思います。

また、内省に使う時間のバランスをとることも重要です。当たり前ですが、会社が事業を進めていく上では、内省だけをしていれば良いという訳ではありません。あくまでも、内省の時間以外で事業を進めることが会社としての活動のメインであり、その進む方向を見失わないようにするために一度立ち止まる内省がどの程度必要なのか、ということを考えるのが良いと思います。弊社の場合、それが、オモイエルさんにお願いする月1回の壁打ちと、内省のマインドを持って臨む週1回の社内ミーティングでした。

内省の時間を作るのと作らないのとでは、作る方が活動のスピードは遅くなります。もしかしたら、最初は作らない方が早く成果が出るかもしれません。しかし、内省の時間を作っておくと、手戻りが大幅に減ってきます。逆に内省をしておかないと、手戻りが生じていることに気付くことすらできないかもしれません。

内省をすると、自分たちの在り方について基軸ができ上がります。これがあると、意味が無かった・無駄打ちだった、と後で思ってしまうような仕事を未然に減らすことができます。また、既に手を付けた仕事に対しても、無駄だった部分を振り返り、次に活かすことができます。これにより、最終的には、10倍くらい活動の効率が変わってくると感じています。

我々もそうでしたが、最初から内省を習慣化するのは難しいので、まずは定点観測となる壁打ちから始め、その結果を社内に持ち帰る、ということだけでも十分に効果はあると思います。まずはオモイエルさんとの壁打ちで自身の考えを振り返り、新たな気づきを得るという体験をしてみるのが一番効果を早く納得いただけるのではないでしょうか。それができてきたら、壁打ちの時間以外でも自然と内省ができるようになってきます。

オモイエルさんとの壁打ちは、我々の想いをベースに相談にのってくれる心理的な安全性があり、さらには情報を可視化して整理してくれる、という点で、他のアドバイザーへの相談とは全く異なります。課題の進め方の答えを探すだけでなく、自分の本来の想いややりたいことを深掘りできる、という機会は、オモイエルさん以外との壁打ちではなかなか作れません。また、自社だけで考えたり整理したりするのにも限界があります。たった2時間で、悩んでいた心のモヤモヤが晴れたような気分になりますので、我々と同じような会社さんには、ぜひ活用いただきたいサービスです。


今回コメントをくださった、たびふぁんさんのホームページはこちらです。

オモイエルでは、プロダクトリフレクション(製品/サービスについての内省)という概念を提唱し、今回ご紹介のあった壁打ちサービスをはじめ、様々な形で企業様の製品/サービスの企画開発をご支援しています。詳細は下記よりご確認ください。