検討すべき物事の全体像を明確にしたり、その中で注目すべき部分を深掘りして考えたりするには、情報を構造化することが有効です。情報を構造化することは、自身の思考を可視化することでもあります。それにより、自身の考えを振り返ったり、自身としての理解の解像度を上げたりすることができます。
この情報の構造化や思考の可視化は、一人で思考を整理する場面だけでなく、二人で対話する場面や、複数人のチームでディスカッションを行う場面で用いることも効果的です。思考の可視化を対話やチームディスカッションの中で活用すると、コミュニケーションの質や確実性が高まるのです。
今回は、思考の可視化が対話やチームディスカッションに与える効果とその実践方法について解説します。
議論に視点を作れる(議論の空中戦を回避できる)
可視化の作業状況や結果を対話やディスカッションの中で共有すると、耳だけではなく、目を用いての情報伝達ができるようになります。
人は情報の8割を目から得ていると言われている通り、対話やディスカッションの内容を耳で聞くだけでは、どうしても聞き流してしまう時があります。しかし、可視化された情報があると、目を用いて情報を確認できるようになり、議論内容に意識を集中しやすくなります。
そして、情報が構造化されていると、議論内容の全体像が明確になり、その中に視点を作れるようになります。視点が作られると、他にもこういった考え方があるのではないか、とか、こんな技術もあるよ、といった有益な意見や情報が生み出されやすくなります。人による考えの違いを加味しながら、自身やチームとしての思考の幅を拡げることができるようになってくるのです。

また、視点があることで、今何の話をしているのかを全員で確認・共有することも容易になります。さらには、全体像に対するその話の位置づけ(本質に迫る話なのか、枝葉の話なのか)もすぐに確認できます。全員の視点を揃えられることで、議論の空中戦(議論している内容をお互いが見失うこと)を回避し、一緒になって着実に検討を進めることができるようになるのです。
検討のプロセスを共有できる
対話・ディスカッションの中における思考の可視化には、その作業プロセスが生み出す効果もあります。
例えば、顧客目線で考える営業・マーケティング側の人と、技術目線で考える開発側の人の議論の場面を想定してみましょう。ここで思考の可視化を用いると、営業・マーケティング側は「カッコがよい」と一言で言っているのは、具体的には「色はこうしたい」「形状はこうしたい」「質感はこうしたい」ということだ、という考えを明確に示すことができます。

そして、そのためにどのような機能が必要なのかか、とか、どのような技術を採用するのか、といった認識を双方で共通化することができます。また、開発側から、このような課題が発生しますが問題ありませんか、といった相談を持ちかけるきっかけも生まれてきます。

このように、議論にあわせて思考の可視化内容を皆でブラッシュアップしていくと、その場にいる関係者間の目線のギャップを埋めつつ、共通認識を形成し、さらにはそれを強固なものにできます。情報の追加や修正のプロセスを共有することで、他の人がなぜそのように考えているのか、という背景や、なぜそのような結論になったのか、という検討の変遷をその場で理解し合えるようになるのです。
対話中における思考の可視化の実践例
対話と思考の可視化を組み合わせた例として、オモイエルの「壁打ちサービス」をご紹介します。
オモイエルの壁打ちサービスは、対話を通じて製品/サービスの全体像を整理しつつ、今後の方向性や課題を考えることができるサービスです。サービスの中では、対話相手(壁打ち相手)が製品/サービスの企画開発者や起業家の方の思考をリアルタイムで可視化する、ということを行っています。

オモイエルの場合は、Webツールを用いて思考の可視化を行い、その画面をオンラインで共有しながら対話を進めていく、という方式を採用しています。これによって、通常の対話よりも話題を膨らませたり、ミスコミュニケーションを防止したりすることを実現できています。2時間くらい対話すれば、上記の画像にあるようなかなりの詳細度で情報整理と様々な議論ができるようになってきます。
また、1on1形式の壁打ちサービス以外にも、複数名での議論をファシリテートする「プロダクト分析ワークショップ」もオモイエルは提供しています。製品/サービスや要素技術の訴求点と課題を明確化・体系化し、チームに共通認識を形成したいような場合には、ぜひご活用ください。
自社で実践する際の課題
最後に、このような思考の可視化の手法を社内の対話やディスカッションに導入する際の課題についてお話しておきます。
可視化の作業を共有する環境の準備
従来、思考の可視化の作業には、模造紙とポストイット等の貼ってはがせる付箋紙を用いることが一般的でした。しかし、最近は専用のツールを用いて、PC内でデジタルに作業することも容易になっています。
IdeaEDGEは、思考を可視化する作業に特化したツールです。優れた操作性により、対話・ディスカッションの中でも、素早く情報の追加や修正を行うことができます。ツールの操作に慣れる必要はありますが、こちらの方が、従来の方法よりも手軽に修正作業を行えたり、データを保存できたりする点でメリットは大きいと言えます。
デジタルでの作業内容を対話・ディスカッションの中で共有するには、作業を行うPCの画面を全員が見られるようにする必要があります。そのためには、参加者が会議室に集まってPCをプロジェクターにつなぐ、という方法の他に、ZoomやTeamsなどのウェブ会議システムを利用する、という方法も考えられます。ウェブ会議システムを用いると、参加者はリモートで集まれますし、会議室に集まる場合でも、プロジェクターではなく各人のPCに画面を映すことが可能となります。また、対話・ディスカッションの内容を録画することもできます。
参加者の調整
複数人でのディスカッションを行う場合、参加人数は最大でも6名程度とするのがお勧めです。これは、全員が均等に発言できるようにするためです。人数が多いほど議論の中で新しいアイデアが生まれる可能性は高まりますが、その一方で、各人が消化不良にもなる可能性も高まります。
また、参加者の所属部署の構成について検討・調整することも重要です。ゼロの状態からディスカッションを開始する場合は、まずは自部署の関係性あるメンバーのみで実施する方がお勧めです。早い段階から色々な部署の人に声をかけて参加してもらうのは避けた方が良いでしょう。関係性の無い人が多い中での議論には遠慮が生まれ、自由な発想や本質的な課題の追求が難しくなります。また、何が議題の本質になるかも不明瞭な段階では、相手に時間を取らせること自体が迷惑となる場合もあります。
他部署の人に知見を求めたり巻き込んだりしていくのは、自分たちの中で情報整理が一旦できてからでも遅くありません。自分たちの理解のためにも、先に自分たちの思考を可視化したアウトプットを一度たたき台として作成することがお勧めです。そして、それを他部署の人にレビューしてもらう形式にすると、双方にとって時間の無駄が無く、確実に検討を進めることができます。
進め方の設計と議論のファシリテーション
思考の可視化を用いた対話・ディスカッションの時間は、集中力の観点で、1回あたり2~3時間とするのがお勧めです。テーマの規模が大きい場合は、複数回に分け、全体の進め方を事前に設計する必要があります。
また、議論を活発化させつつ全体の進行をマネジメントできるファシリテーターがいることも重要です。ファシリテーターの役割は、議論の筋道を読み解きながら参加者に適切な問いかけを提供し、全員にとって納得のできる結論を導くことです。高度なスキルや経験値が求められますが、議論に参加するメンバーがファシリテーター役を兼任することは問題ありません。思考の可視化の作業(ツールの操作)もファシリテーターが担えると、全体がスムーズに進みます。
今回は、「思考の可視化」を用いることで、対話やチームディスカッションの質を上げられる、というお話をしました。また、その実践例や、社内で実践する際の課題についてもご紹介しました。
ぜひ、あなたも誰かと議論する際には、思考の可視化を活用してみてください。いきなりの実践が難しいと感じる場合は、ご紹介したオモイエルの壁打ちサービスやプロダクト分析ワークショップを一度体験してみるのもお勧めです。