サントリーホールディングス社が展開している「社長のおごり自販機」。法人向けの自販機サービスで、社員が2人同時に社員証をかざすと無料で自販機から商品が出てくる、というものです。こちらが面白いサービスだと思いましたので、可視化による分析の題材に取り上げさせていただきました。
まず先に、従来からある一般的な自販機設置サービスの内容を確認しておきましょう。

自販機設置サービスとは、「自販機の導入に費用がかからない」とか「自販機を手軽に運用できる」といった工夫が施されたサービスで、それにより「オフィスに自販機を設置する」ことができます。そして、それにより、「社員がオフィスの中で(外出せずに)飲料商品を手に入れられる」という課題を解決し、「職場環境を快適にしたい」という要求に応える、というのが基本的な構造です。さらには、職場環境をより快適にすることを目的として、「自販機の商品を通常よりも安く提供する」するために「会社が商品代金を一部負担する」ということを福利厚生で行っている企業も多くあります。
では、ここから、よりサービスの価値、つまりは、ユーザー企業にとってのメリットを高めていくには、どのようなアイデアがあるでしょうか。
ここで注目されたのが、「オフィスに自販機を設置する」ことは「コミュニケーションの場を用意する」ことにもなる、という点です。仕事の休憩時間に利用される自販機が社員間のコミュニケーションの場になっているというケースは以前からよくありました。「社長のおごり自販機」が面白いのは、この点を最も前面に押し出し、自販機が商品提供の場ではなく、コミュニケーションの場であることに訴求しているところです。つまり、「コミュニケーションの場を用意する」ことで「社員間のコミュニケーションを増やしたい」という企業のニーズに応えられる、ということを強調しているのです。

サービスを提供する側としてのマーケティングの観点で考えると、このように価値のコンセプトの軸を変えるだけでも、一定の効果はあるかもしれません。しかし、サントリーホールディングス社は、そのコンセプトを実現するための具体的な方法についても検討されています。つまり、社員間のコミュニケーションを増やすために求められる「コミュニケーションのきっかけを生み出す」という課題に対しての工夫がきちんと説明されているのです。

「コミュニケーションのきっかけを生み出す」には、「気軽に相手を雑談に誘える」ことが重要です。そのためには、「雑談の終わりの時間がよめる(業務の邪魔にならない)」ことが求められます。「2人で一緒に自販機に行く」というのは、「雑談時間がちょうど良い長さである」ので、もともとこのような課題を解決するのには適した方法でした。そして、社長のおごり自販機は、この課題をさらに解決するため、「2人一緒なら自販機の商品を無料で手に入れられる、という名目がある」ようにしたのです。
「2人一緒なら自販機の商品を無料で手に入れられる、という名目がある」ことで、「誘われる側にメリットがある」ようになり、「気軽に相手を雑談に誘える」という要件を満たしやすくなります。また、「雑談をすることが目的にならない」ことで「気まずい空気になりづらい」ため、「知らない社員同士でも会話がしやすい」という効果も生まれます。これにより、効果的に「コミュニケーションのきっかけを生み出す」ことができるのです。このように、「2人一緒なら自販機の商品を無料で手に入れられる、という名目がある」という状況をつくったのがこのサービスのポイントだと言えるのではないでしょうか。
サントリーホールディングス社は、そのためのコアとなる機能や技術を特許で抑え、独自の強みとしているようです。2人で一緒に自販機を利用させるための方法としては、「2人で同時に社員証をタッチさせる」という方式がとられています。2人で同時に社員証をタッチすると、「社長のおごりモード」により「商品を無料で提供する(会社が商品代金を全額負担する)」ということが行われるようになっています。

社員証(または専用カード)を利用する、というのは、「共同作業が発生する」ため、「仲間意識を醸成する」ことにもつながる良いアイデアだと言えそうです。また、「誰が利用したかが分かる」ため、ユーザー企業が社員間のつながりをデータとして把握・分析することも容易になります(今回はこの機能についての分析は割愛します)。
なお、会社が商品代金を全額負担するというのは、従来からあった「職場環境を快適にしたい」というニーズにもつながります。ただし、「収益を得ることができる」という従来あったメリットは打ち消されてしまいます。つまり、このサービスは、販売手数料を得ることよりも社員のコミュニケーションを活性化させることの価値の方が高いと判断できた場合に採用するサービスだと言えそうです。
“社長のおごり”というネーミングだけを聞くと、商品が無料になることに注目がいきますが、実際はコミュニケーションを活性化させることが真の狙いである、という所にこのサービスのコンセプトの絶妙な魅せ方が表れているように思いました。
※正確には社長のおごりではなく、企業の福利厚生となっているケースが多いのではないかと思います。
もちろん、企業によってサービス導入の背景や狙いは様々でしょうし、そのために特に必要とされる機能や工夫も異なってくると思います。本サービスでは、おごり機能を稼働させる時間帯や1人あたりの上限数などを設定できるようになっているようです。また、現在は、商品が取り出し口で詰まってしまうため3人以上では利用できない、という問題もあるようです。
より具体的な狙いや活用シーンを思い浮かべながら、今回の可視化分析の内容を追加・修正しながら詳細化し、どのような方向性でさらに本サービスを進化させられそうかを考えてみるのも面白いのではないでしょうか。
参考URL
https://www.suntory.co.jp/softdrink/jihanki/ogori/
https://president.jp/articles/-/76241
https://www.watch.impress.co.jp/docs/topic/1414932.html